日本通信百科事典
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裁判員の女神

ヒロインの勇樹美知子

裁判員の女神(さいばんいんのめがみ)は、かわすみひろしの作品で、原作は毛利甚八、監修は井垣康弘で、『週刊漫画サンデー』で2009年2月3日号~2010年5月25日号まで掲載された。

単行本は全5巻まで刊行されている。作品全体はテーマが非常に重いのが特徴である。

概要[]

メインテーマは「知らずに人を裁くのですか?」であり、2009年5月21日より「裁判員制度」が開始された。これは3人の裁判官と選ばれた国民が6人の裁判員としてともに犯罪を裁く制度である。

主人公の勇樹美知子は海鳴市裁判所に勤務する裁判官で、6人の裁判員とともに犯罪者の罪状などを検討してしてゆく物語である。

ちなみに作品の特別付録としては「- 見ずに死刑は下せない? - 知ってビックリ?! 裁判制度」がオマケつきである。舞台の海鳴市は西日本に属し[1]、海に近いため三重県熊野市がモデルである[2]

さらに、海鳴市裁判所は岩手県盛岡市の裁判所がモデルである[3]。ちなみに『魔法少女リリカルなのは』の舞台と偶然一致している。

登場人物[]

裁判所[]

勇樹美知子(ゆうき・みちこ):26歳
海鳴市裁判所の左陪席を務める判事補で、主人公のヒロイン。
19年前の夏に公園で「かくれんぼ」していたときに、一緒に遊んでいた兄が刑務所出所したての初老の男に誘拐殺害された。
そのことをきっかけに、裁判官を目指し大学の法学部でも優秀な成績で卒業した。
はじめは東京地裁刑事部に在籍していたが、上司の裁判長の井上正義と衝突して、海鳴市に左遷された。
彼女のポリシーは、犯罪者の罪状の事情(捜査官の強要捏造など)を考慮して、軽罪することである。
最終は清志郎と東京の刑務所に行って、兄を殺した高齢の犯人が重病で伏せていたとき、それに向き合った。
清志郎は「この人はいい思い出もなく暗闇に向かうんだね」と言ったため「私は兄の分まで生きればいい」と言って犯人の手を握った。
以降から勇樹は「これからはいい裁判官を目指して、多くの人を救おう」と吹っ切ったように言った。
山崎武史(やまざき・たけし):50歳代後半
海鳴市裁判所の裁判長で穏やかな性格である。
妻と娘の子である清志郎と「裁判所宿舎」で暮らしている。
裁判全体に関してリベラルでフランクな持論をポリシーとしている。
公私に渡って、勇樹の理解者で、趣味の釣りを楽しんでいる。
モデルはベテラン俳優の長塚京三と思われる(著者のかわすみ本人が長塚のファンらしい)。
山崎清志郎(やまざき・きよしろう):10歳前後
山崎武史の外孫で、山崎の娘である母はおそらく離婚して東京で働いているため、祖父母と同居している。
勇樹によく懐いているため、仲良しだが、母と暮らせない寂しさを、持ち前の明朗さで紛らわしている。
光浦忍(みつうら・しのぶ):30歳前後
海鳴市裁判所の右陪席を務める判事で、ワーカホリックの冷徹でクールな男である。
「裁判員制度」のことを旧制度の司法を揺るがすものとして猛反対している。
最初は勇樹に対して上からの目線という感じの態度を見せたが、いつの間にか彼女に対して微妙な恋心を抱くようになった。
勇樹同様に東京地裁刑事部に在籍し、井上の良き部下だった。
2010年4月から東京高等裁判所の左陪席に栄転することが決まった。
熊野静香(くまの・しずか):25歳
海鳴市裁判所の第1刑事部の事務官で、大学を卒業して3年目である。
勇樹と同世代で、親友関係でもある。本人曰く「女の子として、穏やかに恋したいとのこと」。
上司の田村とともに、趣味の川釣りで勇樹と休暇を楽しんだ。
光浦の厳格な性格に辟易することがあり、「裁判員制度」に対して微妙な感想を持っている。
『実日新聞』のデスク記者である森忠司のことをうっとしいと思い、シカトしている。
あまり関係ないが、彼女の容貌は『きまぐれオレンジ☆ロード』の檜山ひかると何気に似ている。
田村健司(たむら・けんじ):50歳
海鳴市裁判所の第1刑事部の主任書記官。
業務として、部下の静香とともに勇樹の引っ越しの手伝いをした。
静香いわく謹厳実直だが、多少イラチ(短気でせっかち)な人。
最初は勇樹のことを「世間知らずのお嬢さま」と思った。
同時に川釣りで勇樹と静香に対して「女の子同士で水遊びでもしてなさい」と言った。
しかし、勇樹の目指す目標を聞くと「勇樹判事補はユニークな考えを持ってますな」と好印象を持った。
基本的にヤクザと暴力団のことが大嫌い。
工藤(くどう):60歳前後
海鳴市裁判所および地家裁の所長、山崎の上司でもある。
業務上、めったに顔を出さないが、審理リハーサルにめずらしく顔を出した。
実は勇樹の裁判に警戒を持ち、光浦同様に「裁判員制度」に大反対である。
井上正義(いのうえ・まさよし):50歳代
武蔵野地裁の所長。かつては東京地裁刑事部の裁判長だった。
勇樹と光浦の元上司で、タカ派の裁判官でもあった。
当時の勇樹と評議で、犯罪者の罪状の自白に関して議論を交わした。
そのために、勇樹は海鳴市裁判所に左遷された。
しかし、後に光浦が井上の昇進祝いに訪れると、彼は勇樹のことを心配していた。

その他[]

砂川一郎(すながわ・いちろう):35歳
海鳴地方検察庁の中堅検事。かなりの冷徹な考えを持っている。
警察庁の意向を受けて、刑事事件を公訴する役目を持っている。
光浦とともに勇樹のことを「大衆に媚びるポピュリズム」と軽蔑していた。
あるとき、勇樹の依頼で、「強姦殺人事件」の遺族の立花絵梨に勇樹のメッセージを伝えた。
人権派弁護士の安部勤と裁判所で激しい暗闘を繰り返した。
しかし、「殺人放火事件」の被害者の久住涼子の非業の死を悼むあまりに、上司の伊東検事正らの不正行為に疑問を持っている。
伊東(いとう):40歳代後半
海鳴地方検察庁の検事正。職務のためなら手段を選ばない非情さを持っている。
「殺人放火事件」で、海鳴県警の本部長の依頼で、真犯人の室井を無罪として、無罪の犬養晃を有罪に陥れるようにした。
それを察知した、部下の砂川は最初は無理やりなアリバイと知りながらも職務に徹したが、無罪となったため不発に終わった。
その後、砂川が「人がひとりが死んでいるんです。室生を別件で立件するのはいかがなものでしょうか?」と反論した。
しかし、伊東は「警察庁は我々検察庁と違い予算が莫大だ。彼らとは仲良くやるのが賢明だ」と言ってこれを取り下げた。
基本的に「裁判員制度」に批判的で「法廷で市民に見守られ、正義派と称する裁判官にとって“市民”という厄介な後楯を得たつまらん制度だ」と苦言を述べている。
鷺沢智成(さぎさわ・ともなり):50歳前後
海鳴署・捜査課の警部補。典型的な犯罪者自白強制の刑事で「強盗殺人事件」で登場した。
また、県警本部長の命令で真犯人の室井を無罪して、無罪の犬養を犯罪者として自白させて有罪に陥れた。
その後、安部の尋問でも犬養を犯罪者と強調して、自分を正当化した典型的な官僚ぶりを見せた。
曽根崎大輔(そねざき・だいすけ):50歳代後半
衆議院議員の政治家。祖父および父が海鳴市出身で選挙区も海鳴市だが、本人は東京都港区麻布出身。
勇樹と静香が海鳴市中央小学校の体育館の集会で、憲法による法教育の講義をしたときに勇樹の持論に不快感を持った。
その夜にバーの『魔呑那』で楽しんだ勇樹と静香の会話の邪魔をして、勇樹に対して憲法の持論を強引に持ちこんだ。
同時に、勇樹に対して「自分の愛人」になるように迫ったのである。
しかし、ウィスキーの飲み比べをして、先に酔った挙句に勇樹に語論を論破されて、ギブアップした。
内記牧夫(ないき・まきお):75歳
「強盗殺人事件」を担当した老弁護士。かなりのユニークな考えを持っている。
被害者の娘の尋問に対して肉を抉るような問答を繰り返した。
あまり関係ないが『営業の牧田です。』の主人公の牧田と同じ名である。
安部勤(あべ・つとむ):40歳前後
友人の五味大蔵(名のみ。当人は登場しない)が営む『五味弁護士事務所』に籍を置く「軒弁」「居候弁護士」。通称は「善意のサムライ」。
当番弁護士制度である「国選弁護」の担当をメインとして、冤罪者や貧しい犯罪者を全身全力で弁護している。
砂川のライバルで、裁判所で激しい暗闘を繰り返すが、プライベートではともに酒を飲んだこともある。
富岡秀平(とみおか・しゅうへい):50歳代後半
海鳴弁護士会会長。口ヒゲを蓄えて、扇子を扇いでいる。
安部が「通り魔殺人事件」の容疑者の勝俣史郎を死罪となる判決を出さないように支援を申請された。
しかし、富岡本人は「裁判員制度」に批判的で、「ビジネス」にならないという理由でこれを却下した。
千早(ちはや):41歳
『実日新聞』東京本社・社会部に勤める記者で、森の後輩。
大学卒業後の19年前に、司法記者クラブに属して勇樹の兄の誘拐殺人事件を担当をしたことがある。
若菜(わかな):30歳代半ば
『実日新聞』海鳴支社の女性記者。名は不明でメガネをかけている。
上司のデスクの森が裁判員になったことに強い興味を示した。
森の業命で、「強姦殺人事件」の遺族の立花絵梨にインタビューをし、絵梨のフルートを聴いた。
また、政治家の曽根崎を追及して、曽根崎の女ぐせの悪さを森に連絡した。
あまり関係ないが、『鉄子の育て方』の比企恒子と何気なく似ている。
森忠司(もり・ただし):42歳
『実日新聞』海鳴支社のデスク記者。若いころは東京本社・社会部に勤めていた。顎ヒゲを蓄えている。
「強姦殺人事件」で裁判員に選ばれ、同じ裁判員で的屋&ヤクザの神部甚太を誘って、犯人を死罪にするように工作した。
しかし、それに反対する勇樹と激しく議論し、森のやり方に疑問を持つ甚太の強引な反撃で挫折した。
勇樹のことを「世間知らずのお嬢さま」だという印象を強く持っている。
数か月後に、勇樹を呼び寄せて『青空公園』でフルートを演奏している立花絵梨と巡り合わせた。
その後も、「裁判員制度」に興味を持ち、「ブン屋」つまり報道記者として携わった。
しかし、森の野次馬根性による執拗さに辟易した静香からは徹底的にシカトされている。
「殺人放火事件」で犯人に仕立てられた犬養を調査し、大阪の刑事と蜜月関係にあった風俗オーナーの室井が真犯人だと感づいた。
「通り魔殺人事件」では、海鳴大学法学部教授の南武洋三を取材した。
魔呑那のマスター(まどんなのますたー):?歳
海鳴市内にあるバー『魔呑那』の謎のミステリアスな男性マスター。姓名および素性は不明(最後まで明かされなかった)。
ホームレスの戸浦がビール瓶替金の際に『近藤商店』の店主が「あの人はヤバイからね」と言った(目が怖いらしい)。
営業マンの佐藤が上司で総務部の大久保と「裁判員制度」を語り合いながら飲酒したことからシーンが始まった。
その後も「資産家強盗殺人事件」で裁判員となった戸浦と佐藤が飲食した。
また、勇樹と静香が会話を楽しんだときに政治家の曽根崎が邪魔したシーンがあり、泥酔した曽根崎を介抱したりした。
弁護士の安部と、検事の砂川がプライベートで一緒に飲食するシーンもあった。

各事件の登場人物[]

強盗殺人事件編[]

戸浦(とうら):40歳
戸籍を所持しているホームレスだが、若いころは工作機器メーカーのトップ営業マンだが、派閥争いに巻き込まれ退職した。
事件屋に売り飛ばされた、中国人の女性と偽装結婚して、自分はホームレスとなり、2年の歳月が流れた。
その女性が戸浦に「裁判員」候補の書類が届けたと知らせた。いちおうお金目当てで裁判所に訪ねてそこで佐藤と出会った。
光浦と砂川は苦々しく思ったが、勇樹と山崎に評価されて裁判員に選ばれた。
容疑者の仁川純夫に対して「捻くれていることが自分に似ている」と思い、仁川を諭した。
裁判員の役目が終わると、バーの『魔呑那』で佐藤と祝った。その後、中国人女性と一緒に暮らすために、再就職活動をした。
ごみ箱から拾った英国のジョン・ロック著『市民政治論』をバイブルとして所持している。
佐藤(さとう):30歳
海鳴市の某会社支社の営業マン。基本的には「裁判員制度」には意欲がなかった。
そのため、上司で総務部の大久保とバーの『魔呑那』で飲食しながら「裁判員制度」のことを話し合った。
しかし、ホームレス・戸浦の意欲に動かされて、ともに協力しながら責任感を持って、議論して役目を無事に終えた。
坂口(さかぐち):43歳
主婦。「裁判員」のひとりで、武藤とともに仁川の懲役10年を支持した。
武藤(むとう):64歳
もと中学校校長。「裁判員」のひとりで、仁川の懲役10年の主論派で、勇樹や戸浦に対して激しく議論したが、懲役5年の判決のために挫折した。
鈴木(すずき):40歳
銀行マン。「裁判員」のひとりで、武藤とともに仁川の懲役10年を支持した。
四谷(よつや):30歳
書店店長。「裁判員」のひとりだが、基本的には戸浦と佐藤と同じく、仁川の懲役5年に同調した。
関係ないが、容貌からしてモデルはかわすみ本人だと思われる。
仁川純夫(にかわ・すみお):20歳代後半
もとホストで、「強盗殺人事件」の容疑者。
風俗をやっていた母と母子家庭で過ごしたが12歳で死別した。
その後、高利貸をやった女性資産家の古壁ソノのヒモとなり、生計を立てた。
しかし同時に、ソノの娘の亜矢、またはホストの丸尾美奈とも肉体関係を持った。
そのため、激怒したソノが「この売女のガキが!」とゴルフバッドで仁川に殴りかかった。
同時にソノが50万円を投げ出したため、我を忘れた仁川は無意識でソノを絞殺し、50万円を奪った。
最後は懲役5年に判決だったが、戸浦から「あなたがつまらない男になることはないでしょう」と諭された。
古壁ソノ(ふるかべ・その):60歳
「強盗殺人事件」の被害者。
同市木場町3丁目15番地に住む、高利貸も営んだ女性資産家。「木場町の因業ババア」の蔑称がある。
海鳴市の15人の住民と金が絡んだ、交渉トラブルの前科があるために評判が悪い。仁川と肉体関係を持つ。
2009年4月21日のPM8:00に、娘の亜矢と肉体関係を持った仁川をゴルフバットで殴ったため、かえって絞殺された。
古壁亜矢(ふるかべ・あや):20歳代後半
被害者の古壁ソノの長女。仁川の恋人だったが、母公認ではなかった。
ある日に、母ソノに仁川と付き合っていることを告白すると、ソノは逆上した。
自分が原因で母が殺害されると、巻き込まれるのを避けて、仁川とは無関係を装った。
丸尾美奈(まるお・みな):20歳代後半
ホステスで、仁川とは半年間の恋人。外見も性格も派手な女性である。
彼女曰く「純夫って、東京仕込みでスゴいから♡」とのこと。
しかし、ある日仁川の携帯電話の履歴を盗み見して、亜矢と二股をかけたことを知って破局した(仁川と亜矢のデートを目撃した)。
甘利(あまり):?歳
海鳴市の鑑定医。裁判所で古壁ソノの死因が扼死(手による絞殺)による窒息死だと述べた。
大久保(おおくぼ):?歳
海鳴市の某会社支社の総務部の管理職。佐藤の上司。「裁判員制度」について、バーの『魔呑那』の佐藤からの相談を受けた。

強姦殺人事件編[]

神部甚太(かんべ・じんた):33歳
的屋としてたこ焼き屋を営むヤクザで、妻のアカネと娘の雪がいる。意外と人情家で涙もろい。早く母を亡くしている。
最初は補充「裁判員」だったが、そのうちのひとりの酪農家の枚方が松坂牛のお産のために辞退したため正式に選ばれる。
ヤクザ嫌いの田村から「鶏冠」、静香からは「軍艦巻き」と呼ばれた。本人曰く「堅気がドスを持つな!」とのこと。
はじめは新聞記者の森とともに、容疑者の笹野を死刑に持ち込もうとしたが、兄を殺された勇樹と笹野の母のことで揺れた。
次第に被害者補償に関心がない森に反発を覚えて、画鋲で自分の手を突き刺して血を噴き出す荒っぽい行為で、森の目論みを断念させた。
判決直前に反省の様子を見せない容疑者・笹野に対して、全身全力の謝罪のお手本を示した。
小松(こまつ):63歳
公務員を定年退職した「裁判員」のひとり。笹野の無期懲役を支持した。
モデルは司馬遼太郎だと思われる。
ジャクリーヌ久米(じゃくりーぬ・くめ):25歳
『レッドウルフ』に勤務するニューハーフ店員で、「裁判員」のひとり。
笹野のことを生理的に嫌がり、「アイツを見るだけで吐きそう。アイツのアレを切断すればいいのよ!」と叫んだ。
基本的には、森の死刑判決を支持した。
近藤(こんどう):30歳
サラリーマンで、「裁判員」のひとり。神部同様に5歳の娘がいるため、森の死刑判決を支持した。
桜木(さくらぎ):22歳
大学生で、「裁判員」のひとり。まだ若いために司法のことが理解できていないようである。
枚方(ひらかた):50歳前後?
松坂牛を飼育している酪農家で、「裁判員」に選ばれたが、松坂牛のお産のために辞退し、後任の甚太に託した。
笹野庄次(ささの・しょうじ):30歳前後
「強姦殺人事件」の容疑者。勤め人で、母が一人いる。
2009年5月21日PM11:00に海鳴市山手町2丁目付近にある『青空公園』付近の路上で、OLの立花香澄を強姦しサバイバルナイフで殺害した。
自分の仕事と境遇に不満を持ち、またアダルトビデオ好きだったために、犯行に及んだのである。
香澄の妹の絵梨に激しく憎まれて、絵梨から「極刑」を望まれたが、本人は無気力だった。
笹野の態度に業を煮やしたヤクザの甚太が、「お前さんはお袋さんがいるんだろう!」と脅す形で諭された。
判決は懲役20年だった。そのときに笹野の母が安堵したかのように号泣した。
板谷五郎(いたや・ごろう):30歳前後
笹野の友人で、ネットカフェで知り合ったフリーター。犯罪当日に居酒屋『ゴロ兵衛』で笹野の愚痴を聞きながら飲食した。
そのときに笹野から、強姦犯罪をもちかけられるが、急にこわくなった板谷はそれを断り、さっさと居酒屋を出て行った。
立花香澄(たちばな・かすみ):25歳
「強姦殺人事件」の被害者。食品会社の経理部のOLで、10代で両親を亡くしたため、妹の絵梨の面倒を見て、大学進学を断念し絵梨を大学に行かせた。
絵梨が発熱したために、コンビニ『ミコシマート』で氷を買ったときに、偶然居合わせた笹野に狙われて、そのまま強姦されサバイバルナイフで3度もメッタ刺しされて殺された。
高校時代から、フルートを趣味として、米国のジャズ歌手のマェル・ワォルドルンの『レフトアロゥーン』を事件当日前まで演奏した。
立花絵梨(たちばな・えり):20歳前半
「強姦殺人事件」の被害者の遺族で、香澄の妹。同時に『青空公園』のトイレ内で放置された姉の遺体の第1発見者。某企業のOLである。
自分が発熱したことで、氷を買いに行った姉の帰宅が遅いことに不審を持ち、友人と探し出したところ、偶然に姉の遺体を発見したのである。
姉の非業の死のあとに休職し、精神科の薬を常用して、家に引きこもっていった。当然、容疑者の笹野のことを激しく憎んだ。
ある日、公判前整理手続きの席で勇樹の依頼を受けた公判担当の砂川から『万葉集』の「橘は……いや常葉の木」のメッセージを渡された(どんな理不尽な目に遭っても耐える意味)。
裁判席で勇樹から「あなたはお姉さんの恨みを晴らすだけで、自分のことを大切にしていない」と諭された(勇樹自身も幼いころに公園で、兄を誘拐殺害された過酷な過去を持っている)。
その言葉に動かされて、絵梨は姉の趣味だったフルートを音楽教室で習い始め、マェル・ワォルドルンの『レフトアロゥーン』(44歳の若さで逝去したパートナーの伴奏者ベィレィ・ハルディ女史に対する鎮魂歌のアルバムで1960年発表)をマスターした。
その後、森に誘われた勇樹が、姉が亡くなった『青空公園』でフルートを演奏した絵梨を見て、「あなたのおかげで、誰よりも私がすくわれたのね…」と涙を流して言った。
これを見た森も嘆息して、絵梨のフルートを聴いて「澄んだ音色じゃあないか…」と呟いた。

殺人放火事件編[]

小倉三郎(おぐら・さぶろう):45歳
『メロス宅配便』の配送運転手で、「裁判員」のひとり。コミュニケーションが苦手で、趣味の模型飛行機を土手で楽しんでいる。考え事をするときに折り鶴をやる癖がある。
実は中学時2年生にクラス委員の瑞穂に惚れて、連立方程式の間違いをアドバイスしたことで、かえって嫌われて「小倉はキショい(気色悪い)」と陰口を叩かれ人間不信となった。
そのために「裁判員」さえも億劫に感じいたが、裁かれたのが去年に土手で出会った犬養だったので、模型飛行機を褒めた勇樹の励みもあり、犬養を救うために、徐々に人間不信から改善された。
それが高じて犬養が犯人ではないアリバイを証明するために、奔走した。その途中で光浦とバッタリ会い、小倉のやり方が無駄だと言う光浦に対して「人を刑務所を送るのは怖くてたまらない」と反論した。
「裁判員」の役目を終えると、『青空公園』で気落ちした犬養を慰め、小倉本人も出会った涼子を弔う意味で、土手で模型飛行機を披露した。
余談だが、競輪の滝沢正光に何気なく容貌が似ている。
和田光子(わだ・みつこ):50歳
大手デパートのバイヤー部長で、「裁判員」のひとり。素顔は明るい女性。
涼子の焼死体の写真を見て、逆上して我を忘れて執拗に犬養を有罪に判決するように、小倉と議論を繰り返した。
しかし、小倉の言葉で気づいた光浦から「あの写真は裁判官の僕さえ見たくなかった」と諭されて、押し黙った。
その後、「裁判員」の役目を終えると、光浦当宛に手紙を出して「自分の判断が誤っていた」と述べた。
馬場茂(ばば・しげる):30歳
事務用品メーカーの営業マンで、「裁判員」のひとり。
基本的には中立の立場だが、犬養のアリバイを聞いて、メーカー専門家として犬養の無罪を信じた。
犬養晃(いぬかい・あきら):27歳
「殺人放火事件」で冤罪の濡れ衣を着せられた容疑者。某メーカーの営業マン。
恋人の久住涼子の婚約者だったが、理由不明の婚約破棄をされてヤキになって帰宅した。
その後、涼子が何者か(後述)に絞殺されて、焼死体として発見された。
翌朝に、海鳴署の鷺沢によって強引に連行されて、狡猾な尋問で自白させて、理不尽にも犯罪者扱いにされた。
それを不審に思った「善意のサムライ」こと弁護士の安部から冤罪を晴らすと約束したため、鷺沢の要求を拒んだ。
そのために、鷺沢は灰皿を投げて「貴様なんか死刑にしてやる!」と凄んだ。
実は昨年に涼子とデートしたときに小倉と出会ったために、犬養の無罪を信じた小倉によって救われることになる。
それは、涼子殺害の夜に犬養の自宅にファクスが受信されたことがアリバイとなり、安部の奔走で無罪を勝ち取った。
ただし、例の「冤罪事件」が勤務先にとってマイナスイメージとなり、自主退職をせざるを得なかった。
それを不憫に思った、小倉と『青空公園』で再会し、土手に誘われて小倉の模型飛行機で気持ちが安らぎ、涼子のことを懐古した。
久住涼子(くすみ・りょうこ):25歳
犬養の婚約者。しかし、ある事情で2009年6月3日に犬養との婚約を破棄し、自棄になった犬養は帰宅した。
同日PM9:00ごろに何者か(後述)に絞殺されて、焼死体として発見された。
実は、涼子の大学時代の友人・沢木あけみの証言で、涼子と付き合った風俗オーナーの室井が真犯人だと証明された。
沢木あけみ(さわき・あけみ):25歳
涼子の大学時代の友人。3年ほど前に涼子が海鳴市に引っ越す前に、風俗オーナーの室井が涼子と付き合っていたことを知っている。
しかし、室井の素顔がバイオレンスでサディストだったために、涼子が海鳴市に逃げるも執拗な室井に殺害され、犬養が冤罪で犯人にされた。
彼女の証言が犬養の逆転無罪のキーポイントとなった。
太田晶子(おおた・あきこ):?歳
久住涼子が住むマンションの住人の中年女性。
犬養と涼子の言い争いを聞き、また涼子の焼遺体の第1発見者である。犬養を犯人と思って疑っていない。
室井(むろい):35歳
大阪府のミナミの風俗を営むオーナー。「殺人放火事件」の真犯人。
海鳴市に逃げる前の涼子と付き合ったことがあったが、独善的で涼子に逃げられるも、執拗に追って涼子を絞殺して、その遺体を焼いて殺害した。
その彼が犯人にされずに、犬養が冤罪で犯人扱いにされたのは、大阪の風俗取締担当の名物刑事が室井と親密で、室井から賄賂を受けたことによる。
それを弁護士の安部が室井を疑い、森も大阪まで来て室井をインタビューした。室井は真犯人だということは検事の砂川も知っていたが、組織の規則でこれを見過ごした。
しかし、鷺沢ら警察庁と検察庁の幹部たちが室井をかばって、強引に犬養を犯人に仕立ててことが裏目に出て、犬養は逆転無罪となった。
その報を受けた県警の本部長と、砂川の上司・伊東検事正らはやむなく別の立件で室井を逮捕し、室井と組んだ名物刑事を自主退職させたことでその件は終わった。

通り魔殺人事件編[]

藤井俊介(ふじい・しゅんすけ):21歳
海鳴大学法学部の3年生で、「裁判員」のひとり。将来は大学を出た後に法科大学院(ロースクール)に進み、司法試験を受けるプランを持っている。
最初は「裁判員」を辞退しようとしたが、教授の南武が「裁判員」の役目を無事に終えたら自分の講義の単位の成績をすべて「A」にすることで、前言を撤回した。
しかし、容疑者の勝俣の暗い過去を知ると、トラウマになり葛藤したため、恩師の南武の自宅に招かれた。そこで「死刑判断」の惨さの個人受講を受けた。
それがきっかけで立ち直り、今度は司法書を読み漁って、木下と勝俣の「死刑判決」との激しい議論を交わした。
やがて「裁判員」の役目を終えると、南武教授から「藤井君、よくやった。判決の重さを腹にズシンと来たかね」と労いの言葉をもらった。
丸山(まるやま):56歳
寺の住職の僧侶で、「裁判員」のひとり。
宗教上の定義で、人を死刑にする「裁判員制度」に反対しているが、中立に徹している。
ただ本人は「仏道に生きるものなら、たとえ無力でも犯罪を犯した人の側にいるべきである」と述べている。
また「死刑は国家にとって最高の見世物である」と述べている。
木下(きのした):35歳
サラリーマンで、「裁判員」のひとり。学生時代に法律を学んだことがある。
「不幸な家庭に育った理由で人を殺していいわけがない」と言って、勝俣の死刑判決を支持して、藤井と激論した。
河原(かわら):52歳
個人タクシー運転手で、「裁判員」のひとり。
タクシーの運転手としての立場から、勝俣の死刑判決を積極的に支持し。藤井を子供扱いした。
内海(うつみ):27歳
女性看護師で、「裁判員」のひとり。
看護師の立場として、人の死は「無意味な平等さがある」と述べている。基本的には中立の立場にいる。
さらに「死刑は被告人のためじゃなく、周りに見ている人々にとって大切なものじゃないかしら」と言っている。
渡辺(わたなべ):31歳
主婦で、「裁判員」のひとり。
「通り魔殺人事件」の現場の写真を見て、涙を流して取り乱してしまったため、裁判は一時的に中断された。
その後は、藤井・丸山・内海らの発言で落ち着きを取り戻した。姫路久美の立場に同情している。
勝俣史郎(かつまた・しろう):24歳
「通り魔殺人事件」の容疑者で、土木作業などで労働したが、現在は無職である。
たまたま通りかかった、大塚一家を皆殺ししたため、マスメディア報道から「人畜無道の人殺し」と揶揄されて騒がれている。
両親は離婚しており、4歳のころから継父の虐待を受けたため、養護施設に引き取られた。
実父は再婚しており、異母妹がおり、自分は必要とされてないと判断し、疎外感を持った。
自分と同じ境遇の久美に目をかけて、15歳のときに久美の実父に対して「もう来ないでほしい」といった。
そのため激怒した久美の父に暴行を受けるが、勝俣がその指を噛みちぎったため、少年院に送られた。
その後、裁判所で再会した久美の思いの「私の命は勝俣君のもの」の言葉で、自分のやったことに苦悶した。
やがて裁判が終わるときに、何か吹っ切れたように「この僕を死刑にしてください」と言った。
その結果として、公訴不可の「死刑に処する」判決を受けた。
大塚重雄(おおつか・しげお):30歳代
「通り魔殺人事件」の被害者で、妻の初実と9歳の娘の美鈴とまとめて勝俣に一家惨殺をされた。
年老いた両親がおり、息子家族を失った悲しみに暮れていた。しかし久美が勝俣の代行として詫びた。
姫路久美(ひめじ・くみ):20歳
勝俣の養護施設時代の共同者で、妹分でもあり、恋人?でもある。
10歳のときに実父に性的虐待を受けたため、養護施設に引き取られた。
最初は勝俣のことを怖い印象を持ったが、優しく接したため3年間は一緒に過ごした。
勝俣が虐待した久美の実父から守るために、少年院に送られたことに自分のことのように痛んでいる。
勝俣に殺害された年老いた大塚重雄の父親宅に訪問して、勝俣に代わって謝罪した。
現在は被害者・大塚重雄の両親の身の回りの世話をして、勝俣の行為を償っている。
勝俣の公訴不可の「死刑」判決に愕然としたが、同席した南武から「死刑はすぐに執行されない」と教われた。
余計なことせずに自分をかまうなと言う勝俣に対して「仕方ないじゃないの!私の命は勝俣君のものだよ」と叫び、これを聞いた勝俣は自分の残酷行為の後悔&良心の葛藤に苦しんだ。
南武洋三(なんぶ・ようぞう):60歳代
海鳴大学法学部の教授。教え子の藤井の「裁判員」としての裁きに強い興味を持つ。
「裁判員」として行き詰まった藤井を自宅に招聘して、「死刑判断」の惨さを伝授した。
記者の森の取材を受けて「裁判制度はしかるべきに驚愕すべき変化が起こる。歴史がそう教えてくれる」と公言した。
最後は勝俣の死刑判決に嘆いた久美を励まし、役目を終えた教え子の藤井を労った。
なお『江戸バルザック』に登場する、事件屋の巨魁である「南部徹男」とは別人である。

脚注[]

  1. 原作者の毛利甚八の提案。
  2. 著者のかわすみの母親の出身地で、多くの母方の親族がいる。
  3. 著者のかわすみの提案で、彼の知人がいるため採用された。

単行本[]

マンサンKCより全5巻が刊行されている。

  1. 2009年5月15日発行 ISBN 978-4-408-17185-2
  2. 2009年8月29日発行 ISBN 978-4-408-17202-6
  3. 2009年11月28日発行 ISBN 978-4-408-17218-7
  4. 2010年2月26日発行 ISBN 978-4-408-17236-1
  5. 2010年6月29日発行 ISBN 978-4-408-17255-2

関連項目[]

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