南ゲルマン語群(独語:Süd-Germanisch)とは、中央ヨーロッパのゲルマン諸語のうち西ゲルマン語群に属し、ドイツで16世紀までに完全に第二次子音推移を経て分岐した高地ドイツ語の語群総称である。
漢字では「南日耳曼語群」と表記される。
概要[]
これはグリム兄弟の兄・ヤーコプ・グリムの『グリムの法則』(第一次子音推移)に引き続き、カール・ヴェルナーの『ヴェルナーの法則』に基づいて、5世紀末~6世紀初ごろにヨーロッパ古語のギリシャ語およびイタリア語などのラテン語の影響を受けたドイツ南部やスイス・オーストリアなどから発生した言語の現象で、9世紀までにドイツ中北部で終了した音韻変化である。
16世紀になって、今までギリシャ語とラテン語を借用語とした古ドイツ語を「新ドイツ語」として変貌させるために、マルツィン・ルターが、ザクセン侯のフリートリヒ3世賢明公(ヴェッツィン家/ヴェッティン家/ヴェッチン家)の援助を得て、独自の『ドイツ語聖書』(『ルター聖書』)を編成した。これが現在ドイツ語辞典の編集のきっかけとなった。
歳月は流れ19世紀になって、カール・ヴェルナーやグリム兄弟とヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテらが総合して、高地ドイツ語の語群総称である「南ゲルマン語群」として、現在ドイツ語辞典の編纂をまとめたのである。
このため、第二次子音推移以前の古ドイツ語の南部方言が「南ゲルマン語群」として変化したことよって、旧来の西ゲルマン語群の特有である無声破裂音が語頭や子音のあとで破擦音になり、それ以外の環境では摩擦音となった。
ただし、第二次子音推移を経ていない最低地ドイツ語ことアンゲル・フリースラント語(アンヘル(アンフェル)・フリースラント語)と低地ドイツ語(オランダ語も含む)は、旧来の「西ゲルマン語群」のままであり、いわゆる「南ゲルマン語群」に該当しない広義のドイツ語である。
高地ドイツ語の歴史の変遷[]
「ドイツ語」という言語は786年に、テオディスクス(theodiscus) というラテン語型で初めて文献に登場するが、これは「民衆の」という意味を表す古代ドイツ語の形容詞(diutisc)を語源としている。このテオディスクスはチュートン人またはトイトーネ人(Teutone)[1]のラテン語形ともされる。
時代順に高地ドイツ語は、
- 750年 - 1050年 : 古高ドイツ語
- 1050年 - 1350年 : 中高ドイツ語
- 1350年 - 1650年 : 前新高ドイツ語
- 1650年 - 現代 : 新高ドイツ語(現代高地ドイツ語)
とおよそ、四期の段階に分類されている。
言語分類[]
高地ドイツ諸語(Hochdeutsch)[]
中部ドイツ諸語(Mitteldeutsch)[]
- 東中部ドイツ語
- トューリンゲン・上部ザクセン語(トューリンゲン・上部ザクセン語/チューリンゲン・上部ザクセン語) : 標準ドイツ語のベースとなる
- ベルリン語
- ラウジッツ語(ラオゥズィッツ語)
- 高地プロイセン語
- ブランデンブルク語
- アンハルト語
- ハルツ語
- マイセン語
- 低地シュレージエン語(低地スィロンスク語) : ポーランドの南西部スィロンスク地方とチェコ・ボヘミア地方東部の言語
- 西中部ドイツ語
- 中部フランケン諸語
- モーゼル・フランケン語 : フランス東中部の言語
- ルクセンブルク語 : ルクセンブルクの言語
- リプアーリ語
- ケルン語(コェルン語)
- ジーベンビュルガー・ザクセン語 : ルーマニア・トランシルヴァニア地方の言語
- モーゼル・フランケン語 : フランス東中部の言語
- ライン・フランケン語
- ヘッセン語(ヘッセン・フランケン語)
- ロートリンゲン・フランケン語 : フランス東中部の言語
- プファルツ語(ラインラント=プファルツ語)
- ヴィラモヴィアン語 : ポーランドの南西部スィロンスク地方南部ビェルスコ=ビャワ近郊の町ヴィラモヴィツェの言語
- 中部フランケン諸語
上部ドイツ諸語(Oberdeutsch/最高地ドイツ語=Höchstdeutsch)[]
- 上部フランケン諸語
- 東フランケン語 : トューリンゲン州南西部・ザクセン州南西部のケムニッツ地方周辺・バイエルン州北東部の言語
- フォクトラント語(フォクトゥラントゥ語/フォクツランツ語)
- エルツ語(エアツ語)
- 南フランケン語 : バーデン=ヴュルテンベルク州北部・バイエルン州北西部・ラインラント=プファルツ州南東部の言語
- ヴュルテンベルク語 : バーデン=ヴュルテンベルク州北部のヴュルテンベルク地方の言語
- 東フランケン語 : トューリンゲン州南西部・ザクセン州南西部のケムニッツ地方周辺・バイエルン州北東部の言語
- バイエルン諸語(Bairisch) : バイエルン州とスロヴァキア・モラヴィア地方南部などの言語
- 北バイエルン語(NordBairisch)
- レーゲンスブルク : レーゲンスブルク周辺の言語
- 中央バイエルン語(Mittelbairisch)
- インゴルシュタット語 : インゴルシュタット周辺の言語
- ムュンヒェン語 : ムュンヒェン周辺の言語
- パッサウ語(パッサオゥ語) : パッサウ(パッサオゥ)周辺の言語
- オーストリア語(Esterreich/Österreich) : オーストリア西部のウィーン州の言語
- ウィーン語 : ウィーン周辺の言語
- 南バイエルン語(Südbairisch)
- ツィロル語 : インスブルックとリエンツ周辺の言語
- モケーニ語(モキェーニ語) : イタリア北部のトレント自治県のモケーニ渓谷付近の言語
- チンブロ語(Zimbrisch) : トレント自治県に隣接するヴィチェンツァ県のセッテ・コムーニの言語
- ゴットシェー語(ゴェットシェーアーバ語) : スロヴェニア中部のカルニオラ地方と南部のコチェーヴィエ市の言語
- 北バイエルン語(NordBairisch)
- アレマン諸語(Alemannisch)
- 北アレマン語(Nordalemannisch)
- シュヴァーベン語(最低地アレマン語=Niedrigalemannisch) : バーデン=ヴュルテンベルク州東部・シュヴァーベン地方の言語・オーストリア西部のツィロル州の北西部のロイテ郡の言語
- シュトゥットガルト語[2](Schduagertisch=シュドゥアガートゥ語/シュヅアゲアツ語)
- バイエルン・シュヴァーベン語 : バイエルン州南西部の言語
- 低地アレマン語(Niederalemannisch) : ドイツ南西部とスイス北部の言語
- 上部ライン・アレマン語(Oberrheinalemannisch)
- シュヴァルツウァルト語(シュヴァーツヴァルトゥ語/シュヴァーツヴァルツ語)
- エルザス語(アルザス語) : フランス東端部の言語
- ボーデン湖アレマン語(Bodenseealemannisch) : ドイツ南中部とオーストリア最西部のフォアアールベルク州北部のボーデン湖付近の言語
- ヴェネズエラ・ドイツ語(ヴェネズエラ・アレマン語) : ヴェネズエラの言語
- 上部ライン・アレマン語(Oberrheinalemannisch)
- シュヴァーベン語(最低地アレマン語=Niedrigalemannisch) : バーデン=ヴュルテンベルク州東部・シュヴァーベン地方の言語・オーストリア西部のツィロル州の北西部のロイテ郡の言語
- 南アレマン語(Südalemannisch) : スイス中部・東部・南部のなどの言語
- 高地アレマン語(Hochalemannisch) : スイス各地域・フォアアールベルク州中部などの言語
- スイス・ドイツ語 : スイス南部を除いた言語
- 最高地アレマン語(Höchstalemannisch) : スイス南部・フォアアールベルク州南部・ツィロル州の最西部ランデック郡などの言語
- ヴァリザー語(ヴァリス語)
- リヒテンシュタイン語 : リヒテンシュタインの言語
- ゼンスラー語
- スヴェビア語 : イタリア北西部のロンバルディア州とヴァッレ・ダオスタ州とピエモンテ州北部などの言語
- 高地アレマン語(Hochalemannisch) : スイス各地域・フォアアールベルク州中部などの言語
- オーストリア・アレマン語(フォアアールベルク語) : フォアアールベルク州の北部で話されるボーデン湖アレマン語、中・南部で話される高地アレマン語、最高地アレマン語などの言語の総称
- ペンシルヴェニア・ドイツ語(ペンシルヴェニア・アレマン語) : アメリカ合衆国のペンシルヴェニア州・中西部、ドイツ系アメリカ人の言語
- バーデン語 : バーデン=ヴュルテンベルク州北西部・バーデン地方の言語の総称
- 北アレマン語(Nordalemannisch)
脚注[]
関連項目[]
- ドイツ語
- 西ゲルマン語群
- ゲルマン語派
- マルツィン・ルター(マルチン・ルター/マルティン・ルター)
- ヤーコプ・グリム(グリム兄弟の兄)
- ヴィルヘルム・グリム(グリム兄弟の弟)
- ヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(ヨーアン・ヴォルフガング・フォン・ゴェーテ)
- ゲルマン人
- 大陸ケルト人
- ドイツ人